新世紀エヴァンゲリオン

〜せめて人間らしく〜

第二部

第六章 熱中


「ラッキー。加持さんにショッピングを付き合って貰えるなんて」

 その日、鼻唄混じりに街を歩く惣流アスカ・ラングレーの右には加持リョウジが連行されていた。


「な、何だぁ? ここ、水着コーナーじゃないか」

「ねぇ、ねぇ、これなんかどう?」

 狼狽を隠せないリョウジにアスカは尋ねた。その手には、紅白のストライプ柄のセパレーツタイプの水着があった。

「いやはや。中学生には、ちと早過ぎるんじゃないかな?」

「加持さん、おっくれてるー。今時こんくらい、あったり前よ」

 ようやく落ち着きを取り戻したリョウジだったが、アスカの攻撃はまだ続いていた。

「シンちゃーん♥ どう? どう? 似合う?」

 鮮やかな青色のビキニの水着を身に付けた山岡リナが、試着室から上半身を乗り出し、碇シンジに手を振っている。

「シンジ君。これはどうかしら?」

 山岡カホルの手には黒のワンピースタイプの水着。背中が大きく開いたハイレグタイプであるだけならまだしも、その脇にワンポイントで配置された真っ赤な薔薇の模様が妖しい雰囲気を醸し出している。

「碇君。これ……」

 山岡ルナの手には、純白のワンピースタイプの水着。

「シンジ様。これなどはいかがでしょうか?」

 山岡アヤネの手には、淡い水色の地に大きなハイビスカスの模様が映えるワンピースタイプの水着だった。

 そう、その日はシンジもまた、山岡家の四人全員により水着購入の現場に連行されていたのであった。

「イヤ、ミンナニアッテルヨ。デモ、ソウイウノハボクダケニミセテホシイナァ」

 シンジはここ数年の経験で、そんな状況にすら慣れていた……が、役者ではなかった。

 シンジが何を言おうと、どうせ皆、現在手に持っている水着を購入するのだ。

「大丈夫。シンちゃん以外に見せる用のも、ちゃーんと選んであ・る・か・ら♥」

「ほう……そうなんだ」

「いいなぁ、修学旅行。あたしも行きたかったな」

 水着を購入したアスカは、ショッピングモールの喫茶コーナーのテーブルでリョウジに愚痴をこぼしていた。彼女らチルドレンには戦闘待機の義務があるため、修学旅行へは行けないのだ。

「修学旅行、どこ?」

「沖縄。スクーバダイビングしたかったなぁ」

「スクーバねぇ。そういや、もう三年も潜ってないな……。ってそれじゃ、何で今日は水着を買ったんだ?」

「せめて気分だけでも……ってね。ねぇ、加持さんは修学旅行、どこ行ったの?」

 アスカは彼の答を知っていながら訊いた。リョウジが中学生だった頃はセカンドインパクトの影響で修学旅行どころではなかった。しかし――

「俺が小学校の時はな、日光」

 リョウジの答は過去の経験から来る予想とは違っていた。

「それってどういう所なの?」

「猿軍団がいてな、いろんな出し物を見せてくれる」

「ふーん。お猿さんかぁ」

「ルナ、シンちゃんとよろしくね!」

「シンジ君。おみやげ、楽しみにしていてね。修学旅行はいいわね。リリンの生んだ学校行事の極だわ……」

 ルナとカホルはそう言うと、手を振りながらチェックインしていった。

「あぁ、三人とも残念だったなぁ」

 相田ケンスケは出発前ですら、片時もビデオカメラを手放さなかった。

「ルナちゃんに惣流はお前に任した。だからリナちゃんとカホルさんはわしらに任せい。ほんじゃ、お前らの分まで、楽しんできたるわぁ。なははははははー」

「アスカ! おみやげ買ってくるからね!」

 洞木ヒカリは、たっぷりと鈴原トウジを睨み付けてからアスカに声を掛け、チェックインしていった。

 シンジとルナとアスカはその日、第3新東京国際空港にクラスメートを見送りに来ていた。彼らチルドレンを除く、第3新東京市立第壱中学校の2年生は、本日、沖縄へと修学旅行に旅立つのだった。


「行っちゃったね……」

「あたしも行きたかったなぁ。沖縄」

「仕方ないわ……使徒が来るもの」

「あんた、変わったわね。見送りに来るなんて」

「そう? 解らないわ」

「浅間山の観測データは可及的速やかにBALTHASARからMELCHIORへ転送してください」

 自律的に仕事をしているMAGIの報告が時折入ることを除けば、それはいつもの風景だった。

 伊吹マヤはカバーを掛けた文庫本に熱中している。そのカバーの中身が女性向け官能小説であることは知られていない。

 その隣では、日向マコトが漫画雑誌を読みながら堪えることもなく大笑いしている。

 一歩離れたテーブルでは、青葉シゲルが目を閉じてギターを弾く真似をしながら鼻唄を歌っている。

 NERV本部第1発令所と言えどもそれが警戒体制の最中でさえなければ、職員は案外リラックスしているものである。


「修学旅行? こんなご時世に暢気なものね」

「こんなご時世だからこそ、遊べる時に遊びたいのよ。あの子たち……」

 コーヒー片手に資料を見ながら話す赤木リツコの相手は、昨日、クラスメートの見送りに出向いたチルドレンを自ら送迎した葛城ミサトだった。

ぱしゃん

 その時、つい先日購入したばかりの純白の水着を身に付けたルナがプールに飛び込む音がプールサイドに届いた。

「あんたは泳がないの?」

「疲れるからね」

 テーブル席に着いたシンジにアスカが声を掛けると、シンジは気のない返事を返した。

「ふーん」

 アスカの顔にいたずらを思いついたといういやーんな感じを見て取ると、シンジは慌てて話を反らした。

「アスカって……意外に保守的なんだね」

 シンジはアスカの水着姿を見ていた。

ぱしっ

「エッチ、痴漢、変態、信じらんない」

 アスカが身に付けていたのは、リョウジが中学生にはちと早過ぎると評した紅白ストライプのセパレーツの水着だった。それですら保守的であると評するシンジはどのような水着姿を期待するというのか……。

 アスカの手により、左頬に綺麗な紅葉を描かれたシンジは静かに反論した。

「いや、それって前の時と同じ水着だよね。アスカってシナリオ通りに進めるのが好きなんだなって思っただけなんだけど……」

「え? あ、いや、あははは……ごめん」

 自分の勘違いに気付いたアスカは、最初笑って誤魔化そうとしたが、結局小声で謝った。

「アスカも変わったね」

「そう……かな?」

「お母さんと暮せて良かったみたいだね」

「うん」

 浅間山の観測データに対するMAGIの処理が完了したため、発令所の職員はNERV本部内のとある会議室に移動し意見を交換していた。

「これでは良く判らんなぁ」

 冬月コウゾウはMAGIが処理した画像を試すがめつ見ながら言った。画像は浅間山の火口から沈降調査した観測機のデータを処理したものであり、サーモグラフィの画像では一面に熱源が広がっているだけのように見える。

「しかし、浅間山地震研究所の報告通り、この影は気になります」

 コウゾウの言葉に対し、シゲルは画像の内の注目すべき点を指摘した。

「もちろん無視は出来ん」

「MAGIの判断は?」

「フィフティ・フィフティです」

 リツコの質問にはマヤが答えた。

「現地へは?」

 結局コウゾウは、現在の手持ちデータだけでは不十分であると結論づけた。

「既に、日向一尉が到着しています」

 浅間山地震研究所には、情報を受けたNERVの職員が追調査を行うために訪れていた。

「限界です」

 自らが所有する観測機の様子を知り尽くしている現地の研究員の訴えを聞くと、マコトは思案した。

 彼は所詮、作戦部の所属であるため、作戦中すなわち使徒との戦いの最中以外で、対外的に権力を振るうことには躊躇があった。一方、現時点では結論を出すまでには至っていない。

「すみません。少し外します」

 結局、彼はNERV本部の指示を仰ぐことにした。


「観測機が壊れたらNERVの方で弁償しますので、限界まで調査させてください」

 マコトはNERV本部の決定を研究員に伝え、調査を続行した。

 その結果、観測機を深度1200から更に沈降させたところでモニタに反応が表れ、観測機が圧壊する寸前で解析が完了した。

 解析結果が示すものはパターン青、すなわち使徒の反応であり、マコトは即座に研究所の職員に通達する。

「これより当研究所は完全閉鎖。NERVの管轄下となります。一切の入室を禁じた上、過去6時間以内の事象は、全て部外秘とします」


「溶岩内に潜伏する目標について、技術的な観点での検討を技術部に頼んでおいてくれ」

『了解』

 マコトは廊下に出ると、携帯電話を用いて再度NERV本部に連絡していた。相手はシゲルだった。

「六分儀。使徒の胎児発見という報告を受けたが、何故捕獲を検討せんのだ?」

「危険すぎます」

 六分儀ゲンドウは、呼び出された人類補完委員会の仮想会議の席で叱責を受けていた。

「確かにリスクは大きい。しかし生きた使徒のサンプル、その重要性は既に承知のことだろう」

「今更使徒のサンプルを新たに手に入れたところで何ができるというのでしょう?」

 自らの唯一の興味の対象であるエヴァンゲリオン初号機は既にS機関を取得している。そのため、仮にそれが生きていようとも、ゲンドウには新たな使徒のサンプルの必要性など微塵も感じられなかった。

 それに加え、未だに秘密裏の内に蘇生措置が続けられているとはいえ、綾波レイの事実上の死去以来、自らの計画は、修正の方向性すら見出すことができないでいる。ゲンドウは時間を必要としていた。

「計画に遅れが出ている。スケジュールの遅れを取り戻すためにも、負う価値の十分にあるリスクだよ」

 一方、人類補完委員会そしてSEELEは、計画に必須でありながらNERV本部が担当していない数多くの研究テーマを残しており、生きた使徒のサンプルに期待を掛けている。

「ではA−17を?」

「失敗は許さん」

 議長であるキール・ローレンツの言葉を最後に、全ての議員のホログラフが消えた。


「失敗か……。その時は人類そのものが消えてしまうよ」

 ゲンドウの横に立ち、会議の様子を窺っていたコウゾウがひとりごちた。

「あきれた……結局捕獲?」

 技術部顧問として会議に参加している惣流キョウコ・ツェッペリンは開口一番にそう口にした。

「上の決定だそうです」

 答えるリツコも、無駄な労力を使わされることに納得はしていない様子である。

 彼女らは、浅間山の現場に残る作戦課長のマコトからの要請で、技術的な観点から溶岩内に発見された使徒の対処について検討していたが、捕獲という選択肢は最初に排除されたものだった。

 理由はいくつか挙げられるが、特に重要なものが二つあった。

 一つ目は、胎児に見えるからといって本当に胎児であるかどうかは定かではないということ。観測機は波形パターン青を観測した直後に圧壊してしまったため、現時点で彼女らが手にしている情報は乏しい。

 二つ目は、使徒が実際に胎児であったとしてもそれを研究する間、常に羽化の危険を心配する必要があるということ。捕獲し、研究し、破棄すなわち殲滅するまでの期間、継続してエヴァンゲリオンを臨戦態勢のまま待機状態に置き続けなければ、突然の羽化には対応できない。これは致命的な問題である。

 シンジたちやキョウコはこれらに加え、捕獲を試みたところで溶岩内で羽化することを知っているのだから、捕獲という選択肢には最初から何の価値もなかった。


「これが目標。まだ完成体になっていない蛹の状態みたいなものね。今回の作戦では、使徒の捕獲を最優先とします。出来得る限り原形を留め、生きたまま回収すること」

 リツコは気を取り直すと、胎児状の使徒の画像をチルドレンに見せながら説明した。

「出来なかった時は?」

「即時殲滅」

 アスカの質問に対するリツコの答は簡潔だった。

 特殊装備の関係もあり、溶岩に潜行して捕獲を担当するのは、アスカとエヴァンゲリオン弐号機ということになった。

 技術部顧問の立場のキョウコが、結局のところ殲滅作戦になることを知っているため、エヴァンゲリオンは三体とも派遣されることになった。

「A−17が発令された以上、直ぐに出るわよ。支度して」

 浅間山山頂では、作戦準備が着々と進められていた。

「エヴァ零号機、初号機、及び弐号機到着しました」

 オペレータがエヴァンゲリオンの現場への到着を伝えた時点で、周囲には既に冷却液や電力を山頂へと運ぶための数多くのパイプが走っており、山頂には巨大なクレーンが厳重に足場を組んで設置されようとしている。

「エヴァは三機ともその場にて待機。レーザーの打ち込みとクレーンの設置を急いでくれ」

 マコトはエヴァンゲリオン到着の報告を受け、新たな指示を出した。

 浅間山に架かるロープウェイには、ただ二人の乗客が在った。

「A−17の発令ね……。それには現資産の凍結も含まれているわ」

 座席に犬を抱いて腰掛けた女性が、相手の顔も見ずに話した。

「お困りの方も、さぞ多いでしょうな」

 同じく相手の顔も見ずに答えるのはリョウジだった。

「なぜ、止めなかったの?」

「理由がありません……というより上からの命令によるものです。NERVには選択の余地はありませんよ。それに、発令は正式なものです」

「でもNERVの失敗は、世界の破滅を意味するわ」

「彼らは、そんなに傲慢ではありませんよ」

『あぁぁ、もう。鬱陶しいわね』

 エントリープラグ内のモニタを見るアスカの視線の先には、編隊を組んで上空を哨戒する国連軍の航空機の姿があった。彼らには、NERVの作戦が失敗した時に使徒をN爆雷で熱処理するという任務が与えられている。

『僕らごと焼き払うっていってもなぁ……』

「使徒だけが生き残る結果に終わるでしょうね」

 作戦開始を待っている面々にはまだ余裕があった。

『悪いわね、リツコ。エヴァとあたしたちも生き残るわ』

ぶしゅっ

 鈍い音を伴いながら火口に打ち込まれたレーザーを合図に、作戦準備の最終段階は滞り無く進められた。

「レーザー作業終了」

「進路確保」

「D型装備、異常無し」

 火口付近に設置された移動指揮車に次々と報告が入り、やがてクレーンに吊られたエヴァンゲリオン弐号機が火口上空へと移動させられた。

「弐号機、発進位置」

 それは作戦準備の完了を意味していた。

「了解。アスカちゃん、準備はどう?」

『いつでもどうぞ』

「発進」

うぃーん、がたん、がたん……

 マコトによる発進の合図を受けると、クレーンは弐号機を火口へと送り出した。

『うわぁ、熱そう』

「弐号機、溶岩内に入ります」

 マヤが弐号機の状況を伝える裏で、アスカは弐号機の両足を前後に広げていた。

『見て見て、シンジ。ジャイアントストロングエントリー』

『アスカ、やっぱりシナリオ好きだろ?』


「現在、深度170。沈降速度20。各部問題なし」

『視界はゼロ。何も判んないわ。CTモニタに切り替えます』

 マヤが伝える外部からの状況報告に合わせ、アスカは溶岩内の自らの状況を報告する。

 モニタを切り替えたことで、エントリープラグ内のモニタの映像は若干の変化を見せた。

『これでも透明度120か』


「深度400……450……」

 何らの乱れもない弐号機の沈降に合わせ、断続的に現在深度を報告していたマヤが、弐号機の目標深度への到達を伝えた。

「深度1300。目標予測地点です」

「アスカちゃん、何か見えるかい?」

『反応無し。いないわ』

 マヤの報告を受けたマコトの質問に対するアスカの答は否定であり、リツコはそれに対する推測を述べた。

「思ったより、対流が速いようね……」

「目標の移動速度に、誤差が生じています」

「再計算、急いで」

 マコトはオペレータに指示を出した後、アスカに伝えた。

「作戦続行。再度沈降よろしく」


「深度1480……」

「オリジナルのままのD型装備では、このあたりが限界だったわ」

 マヤの報告を聞いたリツコの言葉にマコトはどきりとした。

『ママのおかげって訳ね。でももっと潜れるっていっても、さっさと終わらせて、シャワー浴びたい』

 キョウコは来日直後に今後の使徒戦に関する情報を知ると、技術部で目立たずに実現できる範囲で、様々な準備を進めていた。D型装備の強化もそのように進められた準備の内の一つであった。溶岩内に限界深度を越えて潜ることは予想されていたため、キョウコは冗長性を高めることでD型装備の冷却系と耐圧力を同時に強化していた。

「近くにいい温泉がある。終わったら連れていってあげるから、もう少し頑張ってくれ」

「深度1780。目標予測修正地点です」

『いた』

「目標を映像で確認」

「捕獲準備」

「お互いに対流で流されているから、接触のチャンスは一度しかないわよ」

『解ってる。任せて』

「目標接触まで、後30」

『相対速度2.2。軸線に乗ったわ』

「電磁柵展開。問題なし。目標、捕獲しました」

 移動指揮車内には、その瞬間、安堵の空気が流れたが、チルドレンは誰一人として気を抜いてはいなかった。皆、本番はこれからであることを知っているからだ。

『捕獲作業終了。これより浮上します』

 アスカの報告に合わせ、クレーンは弐号機の引き上げ作業を始めた。

びーーーーーっ

『来たわね』

 警報音に反応したアスカはその時ペロリと唇を嘗め、集中力を高めた。

 指揮車内のモニタに捉えられた映像でも、使徒は変態を始めている。

「捕獲中止、キャッチャーを破棄」

 使徒の羽化を察知したマコトは即座に指示を出した。

「やはり罠だったのね」

「でも、これで心置き無く殲滅作戦に移れます」

 彼らは捕獲した後のことを憂慮していたため、作戦中に使徒が羽化を始めたことは、むしろ歓迎すべき状況だった。

「作戦変更。使徒殲滅を最優先。弐号機は撤収作業に集中してくれ。殲滅は上がってからでいい」

『了解。バラスト放出』

 バラストを放出すると弐号機の浮上速度が上がった。

 羽化を終えた使徒は、速度を上げて浮上していく弐号機にも容易に追い付き、ちょっかいを掛け続けている。しかし、専ら防御に徹してATフィールドを展開している弐号機は、使徒の攻撃をものともせずに浮上を続けていた。

「まさか、この状況下で口を開くなんて」

「信じられない構造ですね」

 モニタには、執拗に弐号機に噛み付こうとしている使徒が映し出されていた。

「深度600……500……400……」

 マヤの報告により、弐号機の溶岩外への浮上完了の瞬間が近付いたことを確認したマコトは、シンジとルナに戦闘準備を促した。

「ルナちゃんは冷却材の準備。シンジ君は格闘戦の準備」

『了解』

「深度200……100……弐号機浮上します」

ずぼっ

 鈍い音共に弐号機が溶岩内から引き上げられると、それに着かず離れず追い掛けてきた使徒も間もなく浮上した。

 溶岩から出た使徒はアノマノカリスのようなその異形をふわりと空中に浮かせている。

「作戦開始」

 マコトの合図を受けた直後、弐号機は間合いに近付いた使徒に足の裏で蹴り付けた。すると、蹴られた使徒は水平の運動エネルギーを与えられ、零号機に向かって動き始める。

 口を大きく開けて自らに接近する使徒に対し、零号機は片手で構えていたパイプの先を差し込み、もう片方の手では口を掴んで使徒を抑え付けた。溶岩の外に出た使徒は、それ程高速に動けるわけではなかった。

「冷却パイプ圧力最大」

「了解」

ぴきぴきぴきっ

 零号機の動きを見つつタイミングを見計らっていたリツコの指示にオペレータが素早く反応すると、使徒の内部には冷却パイプの液体窒素が流し込まれ、それは急速に気化しながら使徒を冷やす。

 そこへ走り寄った初号機が、ATフィールドの刃を忍ばせたプログレッシブナイフで斬り付けた。

 使徒は切られるでもなく、爆発するでもなく、その場に崩壊した。

「パターン青、消滅」

『任務完了』


『ちょっと何よこれ─。結局あたしは釣りの餌じゃなーい』

 その時の弐号機は、クレーンに吊されたまま使徒を蹴り出した反動のため、ブランコのような振り子運動をしていた。

 カホルはハブ酒の一升瓶を取り出すとテーブルの上に置いた。

「シンジ君。これが私からのお土産。バッチリ元気が出るとお店のおじさまに聞いたわ」

 そう言いながら、カホルは空いた片腕で妙に力の入ったガッツポーズを繰り返して見せている。

「あ、あ……カホルさん?」

「あぁ、あの顔が赤くててっかてかで、頭がつるっぱげのおじさんね?」

「あら、リナもあそこのお店に行ったのね」

 リナはカホルに頷いて答えると、するっと着衣を脱いだ。

「私のお土産は、わ・た・し♥」

「あ、あの……リナ……さん? そのせくしい水着は何ですか?」

「あーん、シンちゃーん♥ 寂しかったよー」

to be continued...



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