新世紀エヴァンゲリオン

〜せめて人間らしく〜

第二部

第十二章 力業


「それで参号機はどうなったんだ?」

「本部に封印されてる。もう使わないって」

 昨日、松代でのエヴァンゲリオン参号機の実験中に事故が起こったという情報を、いつものようにどこからか仕入れた相田ケンスケは、昼休み中の碇シンジを捕まえて質問攻めにしていた。

「それじゃ、カホルさんはどうなるんだ?」

「まだ検査で入院してる。退院してもチルドレンとしては退役扱いってことになるかな? 護衛だけはチルドレン並に付くけどね。ま、これまで通りに戻るだけだよ」

「畜生、何だよ。無事で済むんだったら、俺が乗りたかったな……参号機」

「アホか。この前は怖い言うとったやんけ」

「止めときなよ。危ないよ」

「シンジは自分が乗れるからってそんなこと言えるんだよ。お前に俺の気持ちなんて解るもんか!」

 ケンスケが相変わらず自分の欲望に忠実な発言をするのを聞いた鈴原トウジは、ケンスケに彼自身の過去の発言を思い出させたが、ケンスケは聞く耳を持たなかった。

 ケンスケは、これまでの使徒との戦いを完全に無傷で勝ち抜いてきたシンジたち以外のパイロットを知らない。綾波レイがファーストチルドレンの立場を抹消されたという事実はどこからか仕入れてはいたが、彼女が事実上の死亡状態にあることまでは掴んでいなかった。更に言えば、ケンスケは零号機のエントリープラグに乗り込んだ時にレイを見掛けた経験はあったが、彼女は彼にとって決して身近な人物でなかったこともあり、彼にとってのエヴァパイロットの象徴はシンジだった。誰が見ても上手くやっているシンジの言葉はケンスケへの説得力を持たない。

「使徒やから怖い言うとったんが、大丈夫やったんならわいが乗りた言うお前の情けのう気持ちなんか解りとないわなぁ。わし、ケンスケみたいに遊びんつもりで戦うてる奴に命預けたないで?」

(リッちゃんが言ってたように地下の白い巨人がアダムではないとすると――

 加持リョウジはジオフロント内に誰の許可も得ず勝手に作った自らの畑で、如雨露を片手に自作のスイカたちへと水を与えながら、思いを巡らせていた。

(俺は全然真実なんかに近付けちゃいないってことか)

(人類に進化の階梯を強制的に上らせ、単体の完全な生物として生まれ変わらせるという人類補完計画)

(随分勝手な計画だが、SEELEの老人たちと司令たちの計画では何が違っているんだ?)

(副司令の様子から察するに、司令の計画とやらは頓挫したままのようだが……)

 リョウジはSEELEの意向により、六分儀ゲンドウの動向を探る任務を帯びている。NERV本部の特殊監査部所属という彼にすれば、その行為自体二重スパイということになるが、その点に関してはSEELEとゲンドウの双方がその事実を認識している。更に加えてリョウジが日本政府内務省調査部にも所属している三重スパイであるとまで認識されていながらも、彼には行動の自由が与えられていた。

(老人たちにせよ、司令にせよ、現時点で計画の遂行に重大な支障は起きていないと判断しているように見えるが……)


(あからさまに怪しいのはむしろシンジ君たちなんだが)

 リョウジには、初めて乗せられて以来何の苦労もなくエヴァを操り、度重なる使徒の襲来のことごとくを撃破し続けてきたシンジたちチルドレンこそが謎に満ちた存在に思えていた。しかし、これまで選ばれてきたチルドレンの内、エヴァを満足に操れなかったのは、ファーストチルドレンであるレイただ一人であり、むしろそちらが例外である可能性は捨てきれるものではなかった。

 しかもレイの場合、死亡したとされつつも、極秘裏の内にではあるが現時点で未だ蘇生・延命措置がとられ続けているという事実をリョウジは掴んでいた。

(綾波レイが司令たちの計画の鍵を握っていたのは間違いない)

(しかし……シンジ君たちは一体何なんだ?)

(それに怪獣図鑑――SEELEやNERVですら知り得ない情報を元にしている)

(全てを隠蔽したがる関係者を嘲笑うかのような使徒戦のライブ映像もだ……)

(SEELEに未だ影すらも踏ませない第三の存在? 一体、何が目的なんだ?)

「おかえり。カホル」

 シンジが声を掛けた先には、検査入院からようやく解放された山岡カホルの姿があった。

「ただいま。シンジ君」

「で、あんた何やったの?」

 カホルが山岡家のリビングに入ってくると、それを待ち受けていた惣流アスカ・ツェッペリンは労いの言葉も掛けずに訊いた。

「血液検査と、尿検査と、CTスキャンにも掛けられたわ。本当に好意に値しないわ」

「えぇぇっ! カホルさんそんな目に遇ったの? じゃあ、今日は疲れてるよね。先にお風呂にする? それともお夕食? それともわ・た・し?」

 山岡リナはそれが自分の不幸であるかのような表情を見せていたが、同情の言葉を掛けるかと思いきや、その口から出たのは茶化すような言葉だった。

「通常の検査入院ね」

 一方、山岡ルナは、その程度の検査は決まり通りの仕事に過ぎないという態度であった。

「あんたたちねぇ……。そんなことどうだっていいのよ! あたしが聞きたいのは、カホルが参号機で何をやったかって事よ!」

 せっかくカホルから話を聞き出そうと待ち構えていたにも関わらず、ピントの外れた答が返ってきた上に、その場の面々もその答に付き合っていることに我慢ができなかったアスカは立ち上がり、大声を張り上げる。

「アスカってば、煩いよ」

「あなたの家はここではないわ。騒ぐのなら帰って」

ぼすっ

「うううううううっ……解ったわよ」

 リナとルナに窘められ、唸り声を上げつつも、アスカは再び乱暴にソファへと沈み込んだ。

「お疲れの時には甘いものに限りますわ」

 ちょうどその時、お茶の用意をした盆を手にした山岡アヤネがリビングに入ってきた。

「タルトはいいわね」

 テーブルの上に並べられたお茶菓子は、箱根時代から続くという第3新東京市内の商店としては老舗と言って良い洋菓子店のアップルタルト。

「シンちゃん、あーん♥」

 リナはタルトの縁のビスケット部分を割ると、シンジに押し付けた。


「あんたたち、何でそう落ち着いて何気ない日常を過ごしてられんの?」

「何故って、これが僕たちの日常だから――使徒との戦いも含めて……ね。アスカには特別なの?」

「私は戦いが日常なんて嫌だよ。早く終りにして、私を愛して。ね、シンちゃん♥」

「そ、そうよ! 早く終りにするためにも、あたしたちは敵を知らなければならないのよ! さ、カホル。きりきり話しなさい」

「アスカ、残りの使徒は全部判ってるじゃないか。今更何を知ろうというのさ」

「また、次があるかも知れないでしょ?」

「次って、まさか5回目のこと? 嫌なこと言わないでよ……」

「備え有れば憂い無しって言うじゃない……」

「あなたが何を知りたいというのか、私には解らないわ。でも、バルちゃんの事を知りたいのなら教えてあげる」

「バルちゃん?」

「あんた、あのどろどろっとした奴とは思えない名前で呼ぶのね」

「バルちゃんなら参号機に取り込んだわ。今では参号機の部品みたいなものね」

「そんなこと出来るの?」

「初号機がサキちゃんを食べたのと同じ事よ。やり方が違っていただけ」

「で、どうやったの?」

「ATフィールドを一瞬だけ緩めて、一旦バルちゃんを受け入れてから閉じ込めただけ。後はお説教。バルちゃんの心は弱いもの――直ぐに諦めてくれたわ」

「あんたの心が頑丈すぎるんじゃないの?」

「あなた、本当に好意に値しないわ」

「それで、使徒はどうなったの?」

「参号機と同化してまだ生き続けているのか、その魂がアダムに還ったのか。まだ解らないわね」

「そんな……。それじゃ参号機がNERV本部に封印されてるのって危ないじゃない!」

「私の責任じゃないわ。でも、もう暴れたりはしないのではないかしら。リリンたちの隙を窺う必要なんてないんだから、その気があるならとっくに暴れてるでしょう?」

「使徒って案外諦めが早いって言うか、自らの引き際を弁えてるのかもしれないね」

「さぁ、僕を消してくれ」

 シンジの脳裏には、初号機の右手に捕まった渚カヲルの姿が思い浮かべられていた。あの時、アダムだと信じて向かった先に存在したモノがリリスであることを知ったカヲルは、明らかに戦いを放棄していた。

 もっともカヲルは人間によって育てられ、人間というモノに関する知識を持っていたのだから、彼の行動をもって使徒の一般的な性質を推測することなどできるものではないが、シンジにはそれが自然に感じられた。

「ま、いいわ。確かにあたしらが何かできるわけじゃないし……」

「それより、次の使徒――ゼルエルだっけ? あれって多分強いんだよね、僕はほとんど何も覚えてないんだけど」

 第14の使徒ゼルエルとの過去三度の対戦で、シンジは全て初号機に取り込まれていた。その結果として、彼のゼルエルとの戦いの記憶は曖昧なものであった。

「あのトイレットペーパー野郎にも貸しがあんのよ!」

「あなた、そうやって使徒に貸しばかり作っているのね」

「うっさいわね。疵付けられたプライドは10倍にして返してやるのよ!」

「でも、どうやって?」

「それをこれから考えるんじゃないの! 映像、あるんでしょ?」

 アスカに促され、シンジは碇のMAGIから抜き出してある過去の使徒戦の映像を視聴する準備をした。


「惣流アスカ・ツェッペリン。あなた、ものを考えたことがあるの? ATフィールドを中和しただけでパレットライフルで倒せた使徒なんてマトちゃんだけじゃない」

 映像を見たカホルは言った。

「もうこの頃にはアスカ、何処かおかしかったんだね。焦ってばかりだ」

「弐号機パイロットがおかしかったのは最初から」

「ファースト。人形みたいだったあんたに言われたくないわ!」

 突然立ち上がり、ルナの胸ぐらを掴んでそう言う喧嘩腰のアスカに、ルナは真っ直ぐ冷徹な視線をアスカに向けたまま言った。

「私は人形じゃない。それに今はファーストでも綾波レイでもない」

「アスカってば、何で昔のことになるとそんなにムキになるの?」

 使徒との戦いにリナの出る幕はない――そのことを彼女は良く弁えている。しかし、リナは彼らに長い歴史があることを羨ましく思う反面、彼らの昔話がしばしば喧嘩に発展することに心を痛めていた。

「冷静さを失ったら戦いには負けるわ」

「……悪かったわね。ルナ」

 落ち着きを取り戻したアスカは、ルナのことを名前で呼んだ。これは日常通りのことである。アスカやレイとは違い、ルナはチルドレンでない期間の方が長かった上に、それがシンジに与えられた名前であったこともあり、ルナは名前で呼ばれることを好んでいたからだ。一方、アスカにしてみれば、彼女をファーストではなくフォースと呼ぶことにも違和感がある。

「ルナもN爆雷を手に持って特攻なんてしないでよ」

「あんた、良くこんな馬鹿なことしたもんね」

「私が死んでも替わりがいる――そう思っていたもの」

「へぇ、改めて見るとこの使徒って強かったんだね」

「無敵のシンジ様にかかればどんな使徒だって――

「アスカ!」

 またも話を脱線させようとしているアスカを咎めたのは、やはりリナだった。

「僕が戦っている時は、あの腕の強さもコアの蓋も関係なかったからね。京都にいた頃に映像を見るまでは、怖いのは目からビームだけだと思ってたよ」

 シンジが自分の意志で初号機を制御し、ゼルエルと戦っていた時間は短かった。

 彼が初号機に乗り込んだ時点で、ゼルエルはNERV本部内への侵入を果たしており、その時の彼に出来たことと言えば、不意打ち気味にゼルエルに殴り掛かることだけであり、その際、ゼルエルは腕を使った攻撃を見せなかった。次にシンジは、ゼルエルの目と思しき部位から放たれたビーム攻撃で初号機の左腕を失ったものの、ゼルエルをエヴァ射出用のカタパルトに引き摺り込み、葛城ミサトに呼び掛けることで初号機とゼルエルをジオフロントに射出させた。その部分の映像だけは、戦闘中の本部施設半壊の影響を受け、記録に残されていない。射出された先のジオフロントの映像では、初号機がゼルエルを一方的に殴り付けている。そこまでがシンジの記憶に残るゼルエルとの戦いの全てであった。

 ジオフロントにおけるシンジの操る初号機の攻撃は、動力切れによる突然の活動停止で幕を閉じた。

 その後、初号機はゼルエルの腕の攻撃も受けてはいたが、活動停止状態のエントリープラグ内ではそれを見ることもできなかった上、初号機の覚醒と解放と同時にシンジは初号機に取り込まれたため、初号機の活動停止以降の彼の記憶は曖昧となり、何も覚えていないのと変わらなかった。

「こいつでも不意打ちには弱いって事か……」

「腕の攻撃も近い間合いではそれ程の脅威ではないわ」

「目からビームも目に指を突っ込んだだけで撃てなくなるみたいね」

「ねぇシンちゃん。この子って前にしか攻撃できないって事はないの?」

「まっさかー」

 落ち着いて映像を見た結果、ゼルエル攻略の糸口を見つけた彼らには笑い声さえも戻っていた。

うーーーーーーーーー

『只今、東海地方を中心に非常事態宣言が発令されました。住人の皆様は、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返します――

 第3新東京市への非常事態の訪れは、いつものように突然だった。

『総員、第1種戦闘配置』

『地対空迎撃戦用意』

 NERV本部内に緊急事態を告げる放送が流される中、第1発令所では使徒の侵攻に合わせた戦闘の準備が着々と整えられている。

「目標は?」

「現在侵攻中です。駒ヶ岳防衛線、突破されました」

 冬月コウゾウの質問に対し、青葉シゲルがモニタの映像を切り替えつつ答えた。

 モニタには国連軍の印を着けた地対空ミサイル車両が次々とミサイルを発射し、使徒への攻撃を加えている映像が映し出されているが、いつも通りのことながら攻撃にはまるで効果がなく、足止めにすらなっていない。

 映像に捉えられた使徒は、白黒斑で足が極端に短く、頭部が無いことを除けば辛うじて人型と言えなくもない異形のモノ。その使徒は地に足を着けて歩くのではなく、空中を浮遊したままで、加えられる攻撃にもまるで頓着せず、一直線にNERV本部を目指し侵攻している。

「エヴァの準備は?」

「発進準備、できています」

 伊吹マヤの返事を聞いたコウゾウは思わずこぼした。

「早いな……」

「日曜日で暇だからって、シンジ君たち本部のプールに遊びに来てたんです」

「では、発進だ」

「なんや、今度は牛かいな」

 シェルターに避難したトウジはいつものようにノートパソコンで映像を見始めたケンスケに話し掛けた。日曜日ということもあり、トウジはケンスケの家に遊びに出掛けていた。ただ一人の肉親である父親が留守がちのケンスケの家にトウジが遊びに訪れることはしばしばあることだった。

「牛? 人型だろ?」

「いんや、これは牛や。妹の持っとるパジャマそっくりやで」

「パジャマの話かよ……。こいつ、これでも最強らしいぜ」

 いつものように怪獣図鑑を取り出しながらケンスケが説明した。

『シンジ、ルナ、最初から最大戦速で行くわよ』

『解ってる。62秒でけりを着ける』

『了解』

 シンジたちは初号機と弐号機にS機関が搭載されていることを知っている。それにより実際には作戦行動に時間制限などないことも承知していた。しかし、その事実は未だにNERVから彼らには知らされておらず、また、NERVは外部へのカモフラージュの意味からエヴァにアンビリカルケーブルに縛られた作戦行動を強いていた。

 しかし、兵装ビルなどの障害物が立ち並ぶ地上でアンビリカルケーブルによる枷を受けながら、この使徒との戦闘を行うことは彼らには受け入れがたかった。そこで、彼らはここで一芝居打った。零号機にアンビリカルケーブルによる給電が必要であることに間違いはないが、そのために他の二体への足枷を受け入れることは戦いへの影響が大きすぎるという判断によるものだった。

「発進」

 発令所の指令により、三体のエヴァは地上に射出された。それは使徒がいよいよ第3新東京市に差し掛かろうという頃合だった。そして、エヴァが地上に出るその瞬間――

びょんっ

 使徒の目と思しき部位から、ビームによる攻撃が発せられた。

『ちぃっ』

 ビーム攻撃を受けたのは初号機だった。その攻撃で初号機は左腕を失う。

「初号機、左腕損傷」

「何だ、あの威力は……」

 使徒と初号機の射出抗の間には、いくつものビル群が挟まれていた。使徒のビーム攻撃はそれらの障害物を全て貫いた上で、地上に出る目前の初号機の片腕を奪い去るだけの破壊力を見せ付けていた。攻撃を受けたビル群は蝋燭のように溶け落ちている。

『大丈夫。行けます』

 シンジはそう言うと、初号機を使徒へと走らせた。

 同様に零号機と弐号機も使徒に向かい走り寄っている。

ばばばばばばっ

 一早く使徒の目前に達した弐号機はパレットガンを掃射し、使徒に対する牽制を始めた。

『やっぱり、全然効かないわね』

 その時、アスカは落ち着いていた。使徒の腕は未だ畳まれたままであり、現在の攻撃手段はビーム攻撃だけである。そしてそのビーム攻撃は発射直前に目と思しき部分が光るため、リフトオフされて行動の自由がある現在の状況であれば、充分に避けきれるとの自信がアスカにはあった。

 断続的に牽制の射撃をしては、目が光った瞬間に横に転げてビームを避けるということを数度繰り返す内に、アスカは零号機と初号機が使徒の左右に到達しようとしていることを知った。


『アスカ、行くわよ』

 アスカは自分に言い聞かせるようにそう呟くと、ビームを避けるために転げていた弐号機を立ち上がらせ、今度は牽制を行わずに使徒を睨み付ける。

 すると、使徒は両肩に折り畳まれた腕を広げ始めた。

 その間隙を縫い、零号機と初号機は使徒の腕を片腕ずつ押さえ込んだ。ただそれだけで、使徒は身動きを取れなくなった。

 それとほぼ同時に、弐号機は使徒へと躍り掛かり、目と思しき部位に指を突っ込むと、使徒の顔と思しき部位を掴みとり、仮面を引き剥がすように力を入れる。それは、過去の映像で初号機が見せたのと全く同じ行動であった。

 それから後は、エヴァ三体による一方的な蹂躙と言って良い。使徒の持つ仮面状の部位と本体を繋ぐ肉はプログレッシブナイフで分断され、本来は鋭い切味を見せるはずの腕も、肩から引きちぎられていた。全ての攻撃手段を奪われた使徒になす術はない。エヴァ三体による一方的な攻撃は、過去にはN爆雷の直近での爆発にも耐えたこの使徒のコアに存在する瞼状のシャッターを、防御に用いる余裕すらも与えなかった。

 最後に弐号機がプログレッシブナイフをコアに突き立てると、使徒はその活動を完全に停止した。

『使徒殲滅。楽勝!』

 アスカがそう言っている間に、シンジは引きちぎった使徒の腕を失った初号機の左腕部に押し付け、初号機のあるべき姿をイメージした。

「初号機、左腕復元」

 押し付けられた使徒の腕がぶくぶくと泡立つように膨れ上がったかと思った瞬間、初号機の失われた左腕が復元されるのを、マヤは目の前の映像で確認していた。

『弐号機パイロット、まだ使徒殲滅は確認されていないわ』

 その場で冷静なのは、油断を見せずに零号機を使徒へ向けていたルナただ一人だった。

『うっ。で、どうなの? 使徒はまだ生きてるの?』

「パターン青、消滅。使徒殲滅を確認しました」

「聞いた通りだ。ご苦労様、使徒は殲滅されたよ」

 オペレータの報告を受けた作戦課長の日向マコトが、ようやく口を開いた。この戦闘における彼の出番はこれだけだった。

 チルドレンの三人はここで改めて緊張を解き、三体のエヴァは手近な電源ビルへと接近しアンビリカルケーブルを接続した。

「何や、もう終わりかい。あっけないのう」

「ルナちゃんにだってこれだけ出来るんだ。俺だって……」

「お前、まだそんなこと言うとるんかい」

 暗闇には12体のモノリスだけが浮かんでいる。その日、SEELEは緊急の会議を開いていた。

「遂に第14の使徒までが倒された」

「死海文書に記された使徒も後三体」

「肝心の計画も、思いの外順調に進んでいると言えよう」

「六分儀ゲンドウ。あの男にNERVを任せたことが今のところ幸している」

「左様。あの男でなければ、全ての計画の遂行はできなかったであろうことは否めない」

「だが、順調すぎる裏に何が隠されているのか……」

「あの男の動きが無さ過ぎるのが些か気になるところではある」

「それもしかり。あの男が他に意図もなく、我らの指示を諾々と受け入れていること自体、疑ってくれと言っているようなものだよ」

「鈴は良く鳴っている。そして、今注視すべきは六分儀などではない」

「そう。サードチルドレン、碇シンジ。高が子供と侮っていては――

「いつか足下を掬われかねんよ」

「第14の使徒との戦い」

 04と書かれたモノリスが第14使徒とエヴァの戦いを話題に乗せると、会議の参加者の手元で件の戦いの映像記録が再生された。

「何故に奴はこれほどまで初号機を使える?」

 疑惑を呼んだ部分は、エヴァ初号機が、使徒から毟り取った腕を材料とし、戦闘開始直後に失った左腕を再生した場面だった。

「六分儀のはずはない。奴はそこまでエヴァンゲリオンを理解してはいるまい」

「それは我らとて同じこと」

「まさか、碇ユイが?」

「碇ユイがこの世から消えた時、サードチルドレンは僅かに3歳。考えすぎではないか?」

「だが、他に説明はつかん」

「あるいは、サードチルドレンの空白の2年間に何かがあったか……」

「このままでは、約束の日、我らの妨げとなりかねんよ」

「早急に手を打つ必要がある」

「まぁ、待て。使徒はまだ三体残されている」

 ここで01と書かれたモノリスが発言すると、会議の雰囲気は一変した。

「確かに、サードチルドレンを抜きにして、ここまで順調に使徒との戦いを進められたかと言えば――

「第3、第4、第5の使徒は言うに及ばず、第7、第10の二体の使徒についても、奴が倒したと言っても過言ではない」

「些か不明な点は残るが、使徒との戦いにはもはや不可欠」

「限られた駒は有効に使わねば」

「このまま順調に進むのであれば、約束の日までに初号機から遠ざければ良い」

「ことは碇シンジだけの問題ではないよ」

「フォースチルドレン、そして、フィフスチルドレン。どちらも碇家ゆかりの人物と聞く」

「何故、サードチルドレンの周囲にこれほどまで真の適格者が集まるのか」

「左様。我らがどれだけ探しても見つけられなかった真の適格者が、ここへ来て次々と見つかるのは――

「六分儀……何を隠している」

「鈴の報告によれば、我らがマルドゥック機関が候補者の中から正当に選んだ者がたまたま真の適格者であったということらしいが――

「あのリストは10年も前から存在している」

「まさか、それも碇ユイか?」

「碇ユイがこの世から消えたことに間違いはない」

「では、碇家が?」

「あの没落商家ごときに、今更何ができるというのか」

「最近になって日本の総理大臣と会談を持ったなどという話も聞くが……」

「日本の総理大臣など毒にも薬にもならないお飾りに過ぎんよ」

 日本の内閣の主要閣僚は全てSEELEの息の繋った議員により占められている。内閣総理大臣だけはSEELEとは無関係の人物であるが、それ以外の閣僚たちがSEELE関係者であるが故に、内閣総理大臣が単独で権力を振るうと言っても、その影響力は高が知れていた。

「では、やはり問題は碇シンジか?」

「奴にも鈴が必要だ」

「しかし、今ある鈴が子供には些か大きすぎることは否めまい」

「碇シンジへの鈴については考えがある」

 話題を打ち切ったのは、またも01と書かれたモノリスだった。

「では、次の懸案を――

「この出所不明の怪獣図鑑とやら――

「明らかに我らよりも詳細な情報を得た者の仕事だ」

「聞けば、本部のチルドレンは我らよりも先に、これを手にしていたと言う」

「これまで、使徒との戦いが順調であった理由の一つであることは間違いない」

「しかし、使徒に関して裏死海文書を越える情報源があるとは考えられん」

「では、これも碇ユイが裏死海文書解読の際に我らから隠蔽した部分だとでも言うのかね?」

「何の目的で?」

「これらの情報は使徒との戦いに有益でこそあれ、隠蔽する理由など碇ユイに存在するかな?」

「左様。仮にこれが隠蔽されたモノだとして、それは戦いを有利に進められなくなるだけだよ」

「無論、その場合NERVはこれまで以上に人、物、そして金を費やすことになっていただろう」

「確かに。碇ユイの仕業とするには理由が足りない」

「では何故、今更そのような情報が広められねばならんのだ?」

「一面だけを取れば、NERV、そしてひいては我らの助けとなっているが――

「同時にセカンドインパクトの真実の一端が明かされてしまってもいる」

「第3新東京市を襲う怪獣の謎……か」

「出所不明かつ匿名で信頼性皆無の文書のはずが――

「怪獣図鑑とやらの信頼性が高まるに連れ、同時に信憑性を持ちかねん」

「そちらが本当の狙いであると考えるべきだな」

「あの映像を含め、全てフィクションだと思われているのがせめてもの救い」

「やはりこれは、我らに害をなす物だ」

「しかし、一旦広まり、力を持ってしまった噂を打ち消すのは容易ではないよ」

「もはや我らに噂の元を探ることは不可能」

「左様。既に広まりすぎている」

「幸、我らの計画については漏れていない」

「今のところは……だが」

「これ以上余計な噂が流れない内に約束の日を迎えられるよう、我らの計画のスケジュールを早める――それ以外に取れる手段はないということか……」

「本部のチルドレンが、いつ、どのようにかの情報を得たのか。それも碇シンジへの鈴に探らせよう」

 01がそう言うと会議は終了し、01と書かれた物を除く全てのモノリスが暗闇から消えた。

「怪獣図鑑とやらが第16の使徒までで終わっていることにどれ程の意味があるのか……」

 最後に残された01のモノリスがひとりごちた。

「いよう、葛城。元気にしてるか?」

 リョウジはNERV中央病院一般病棟の一室に、ミサトを見舞っていた。

「見りゃ、解るでしょ? ばーか」

 そう答えるミサトはと言えば、ギプスに固められた左足が吊り上げられた格好でベッドに横たわっている。

「ま、名誉の負傷ってやつだな。正に保安部員の鑑だ」

 ミサトは先のエヴァンゲリオン参号機の起動実験の際に起きた爆発事故で、護衛対象の赤木リツコを庇った結果として左腕と左の鎖骨、左足を骨折した上に、左の肋骨の内の1本にも皹が入るという重症を負った。爆発直後、リツコの体に覆い被さったミサトの左半身に天井からの落下物が襲い掛かったのだった。しかし、ミサトのこの働きによりリツコは掠り傷程度の軽傷で済んだ。

「松葉杖で歩けるから退院させろぉって言ってんのに――

「歩けるって? 何とか動けるの間違いだろう。その体じゃ緊急時に避難もできないだろう」

「公傷扱いで三食昼寝付きって生活はいいんだけどね……」

「大方、ここではビールが飲めないからって退院したいだけなんだろ?」

「うっさいわね! 大体ここは暇過ぎんのよ。あたしは何もしないでぼうっとしてるのは嫌いなの」

「あら、寝てばかりで一週間も大学を休んだ人の言葉とは思えないわよ?」

「だって、あの時はヤルことがあったもん――って、リツコ!」

「やぁ、リッちゃんも見舞いかい?」

「ええ。私の代わりに怪我したようなものだから……」

「友達だから……じゃないの?」

「失礼ね。仮に友人でなくてもお見舞いくらいするものよ」

「ま、それはさておき……。せっかくこの三人が揃ったんだ、もっと面白い話をしよう」

「面白い話って何よ?」

「そうだな……この間の使徒との戦いについてなんかどうだ?」

「あら、加持君にしては随分と色気の無い話題ね」

「でも、ずっとここで寝てたあたしとしては興味あるわ」

「ま、戦い自体は短時間で済んでしまったからな――やはりエヴァさえあれば使徒など恐るるに足らずって感じだったな」

「そうね。私たちの出番なんかエヴァの出撃の準備をして外に出しただけだったわ」

「いいことじゃない。誰も怪我したりしない上に楽出来て」

「しかし、今回の戦いを見て俺は確信したよ」

「何を?」

「エヴァの……いや、シンジ君たちの戦いはリアルじゃない」

「リアルじゃないって加持、あんた……。彼らは間違いなく命を賭けて戦っているのよ」

「勿論、俺は馬鹿にして言っているわけじゃないんだ。ファーストチルドレンの件も知っているしな。ただな、彼らの場合、戦いというよりも完全に知り尽くしている敵をテレビゲームみたいに簡単に処理しているだけのように見える」

「手際が良すぎるってこと?」

「そうだ。別の言葉で言うとな、殺陣でも見せられているのかと俺には感じられるってことだ」

「殺陣ねぇ……」

「言われてみれば、最初の頃からそうだったわね。シンジ君の第4の使徒との戦いやアスカの第6の使徒との戦い。そしてシンジ君とルナさんの第7の使徒との戦いなんかは極めつけと言えるわね。今回の戦いはむしろ泥臭い方と言うべきかもしれないくらいだわ」

「これが訓練された特殊部隊の兵士が気を抜いている人間を簡単に殺しましたって話なら理解できる。だが彼らの相手は使徒だ」

「仮にシンジ君たちがあたしたちも知らないような特殊な訓練を積んでいたとしても、ほとんど何も解っていない謎の敵を相手にできる話じゃないって事か……」

「でも、例のアレがあるわ」

「今回の使徒で言えば、目から出るビームやひらひらしている腕が危険だってことしかわからないはずだ」

「確かにあのビーム攻撃は危険だったわ。地面に向けて発射されていたら、一撃で十数層もの特殊装甲を撃ち抜く威力があったと計算されたもの。実際、初号機は片腕を失ったし……。それがエヴァ三体揃った時点で完全に無力化されたわね。腕に至っては折り畳まれていたのを出した瞬間に零号機と初号機に押さえ込まれて使う機会すら与えられなかった」

「あの情報だけで、ああも完璧な作戦を立てられるもんだと思うかい? いや、むしろあの情報だけで立てたのであれば、偶々上手くいったが無謀な作戦だったと評価すべきくらいの代物のはずだ」

「しかも、きっとあの作戦を実行するために、どうしても速度と行動の自由が必要だったから、最初からアンビリカルケーブルのパージまでしたのね……」

「あたしはその戦いを映像ですら見ていないから何とも言えないわ。でも、あたしなら相手の出方を見てからでないと作戦なんか立てられないわよ――もうチルドレンを死なせたくないもの」

「それに、少なくともシンジ君はファーストチルドレンの件を知っている。仮にも命を賭けた戦いだと言うのに、何故彼らは得体の知れないあんな情報をそこまで信用できると言うんだ?」

「私が訊いた時は、今まで全部当たっているからと言っていたわ。でも、きっと本音じゃない――と言っても、私にはそれ以上追求のしようがないわね。直接訊いてみたら?」

「そりゃ、ごもっとも」

「大体、そんなこと訊いてどうすんのよ? まさか、それもバイトって言うんじゃないでしょうね」

「解らないことを解らないままにしておくってのは、俺の性分じゃないってことさ」

 中学校の昼休み、久しぶりにいつものメンバーが全て揃ったシンジ達一行は、屋上で昼食の一時を楽しんでいた。

「カホルさん、今日、自分のお弁当しか食べてないね」

 見た目は優雅に、そして黙々と、だが、楽しそうに自分の弁当に箸を着けるカホルを見ながら、リナが問いかけた。

「お弁当作ってくれてた娘たちは疎開すると言っていたわ」

 第3新東京市が使徒との戦場と化してから半年。可能であれば戦場から離れるという選択肢を採ることは一般市民としての正常な判断である。しかし、NERVそのものと言って良い第3新東京市にはNERV本部がそこに在るが故に離れることを許されない住人も数多く存在する。

「俺たちのクラスはまだ半分は残ってるけど、他のクラスはもうとっくにほとんど疎開しちゃってるよ。まっ、おかげで昼飯の確保は楽になったけどね」

「妹んクラスもそうみたいやな。友達が皆おらんようになってしもた言うて、ごっつ寂しがっとるわ」

 ケンスケが、いつものように購買部で購入してきたパンを片手に、周囲の情報をしたり顔で語ると、それまでヒカリ特製の特大弁当箱に集中していたトウジが妹から伝え聞く小学校の様子を口にした。


 彼らのクラス、2年A組にはNERV本部内でコード707――チルドレン候補をまとめて保護・確保するクラス――と呼ばれる秘密があり、その関係もあって彼らの保護者達はNERV本部から離れ辛い立場に置かれている。

 ――とはいっても、彼らとその家族が第3新東京市に拘束されているわけではない。

 2年A組の生徒たちをチルドレン候補たらしめるエヴァンゲリオンの予備のコアは旧GEHIRN時代からの遺産であり、それらのコアは当時無差別に用意されたわけではない。旧GEHIRN関係者及びその周辺で、適当な年齢の子を持ちながら事故などによりその命を落とそうとしていた母親たちを材料としてコアは準備されたが、その家族が「死後、献体として提供した」と信じ込まされているという事実に目を瞑れば、彼らと旧GEHIRNおよび現NERVとの関係は悪くない。

 また、2年A組の生徒全てがチルドレン候補というわけでもなく、コアの用意されていない生徒も少なからず含まれている。しかし、彼らも一様に母親のいない子供達であり、これにはコード707の秘密がいずこかへと漏れた場合に備えた保険の意味もあった。

 10年以上前からの関係者であれば、現在のNERVで部下も立場もあって当然であり、使徒との戦闘の最中に現場を離れることは心情的に難しくなる。例を挙げれば、トウジの父及び祖父はNERV本部の技術部で職人技を振るっており、ヒカリの父は保安部、ケンスケの父は広報部にそれぞれ長く所属している。

 自分は無理でもせめて子供だけは疎開させたい――と考えることがあっても、父子家庭であることもあり、子供達を施設などへと送り込む事への躊躇も捨てきれない。一方、これまでの使徒戦での街の被害は、住民が避難したシェルターが被害を受けるといった事態には未だ陥っておらず、その意味では軽微と言える。結果として、これまで2年A組の生徒達には他のクラスに比べて疎開が進まなかった。


「学級閉鎖とかにはならないのかな?」

「いっそ、ひとクラスにまとめちゃえばいいのよ」

「もう直ぐ三学期も終りだから、このままだってさ」

「じゃあさー、ちょっとしか残ってないクラスでも普通に授業してるの?」

「個人授業――良い響きね」

「ねぶちんって生徒一人の時でもああなのかな?」

「えー、その頃私は根府川に住んでおりまして……」

ぶぶぅっ

「おい、きたねぇな、トウジ」

 脳裏に浮かんだ担任教師の様子に、口の中に頬張っていた物を思わず吹き出したトウジだったが、彼はそれを手元の弁当箱で確保し再び口の中へ戻した。直ぐ隣でそれを見ていたケンスケは自分の思ったことを正直に口にしたが、思わぬ反論に遇う。

「じゃかしいわい。せっかくのいいんちょの弁当、米粒一つ無駄にしたらあかんのや! ええか? そもそも米っちゅうんはやな、お百姓さんが八十八の苦労をしてやな――

 同じくトウジの様子を見ていたヒカリは、嬉しいような、恥ずかしいような、嫌なような、嫌でないような、自分でも良く理解できない感情を抱き、一言呟いた。

「バカ」

「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふーふふん♪」

 人気のない廊下を、両手をパンツのポケットに突っ込み、鼻唄混じりに歩く少年があった。ここはドイツ。NERV第3支部とは異なるが、旧GEHIRNの時代から続くSEELE直轄の秘密研究所の一つである。

「一体何の用だろうねぇ?」

 研究所は深い森の奥に位置し、周囲は人間であれば、単身生身での脱出それ自体が生命の終焉と等しい厳寒の地。

 少年は自らが生まれ育ち、そこから出たことすらない研究所内の勝手知ったる通路をただ一人歩み続ける。

「何か面白いことでもあるのかな?」

 15年もの間、毎日毎日変わること無く繰り返されてきた、実験と検査、そして少しの教育の日々。彼は、同世代の他人どころか、研究者と呼ばれる人種以外の人間との交流すら皆無と言って良い変化に乏しい日常を送っていた。


「議長直々の呼び出しかい?」

 少年が呼び出しに応じて入室した会議室はほぼ完全な暗闇であり、中にはただ一人、バイザーで両目を覆い、だぶついたカーキ色のコートに身を包んだ老人の姿のホログラフが浮かんでいた。

「新たな指令を与える。日本へ行き、サードチルドレンを見極めよ」

「僕の出番はまだ先ではなかったのかい?」

 少年は僅かに目を細め、自分の抱いた疑問を口にする。

「貴様に定められた役割は、元より試練を受けし者の見極め。問題はあるまい」

「わかったよ。それじゃ、これでお別れだね」

to be continued...



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