新世紀エヴァンゲリオン

〜せめて人間らしく〜

第二部

第十章 異界


「B型ハーモニクステスト、問題無し」

「深度調整数値を全てクリア」

 NERV本部では、その日も相変わらずチルドレンのハーモニクステストが行われていた。

「ミサトさん。なんだか疲れてません?」

 保安部本来の職務を離れ、チルドレンの実験の様子を野次馬していた葛城ミサトに、日向マコトが話しかけた。

「色々とね――プライベートで」

「加持君?」

 実験を監督していた赤木リツコは、ミサトの返答に自らの推測を披露する。

「煩いわね! どう? チルドレンの調子は」

「アスカが多少苛々していることを除けば、いつも通りです」

 話を逸らしたミサトの質問に答えたのは伊吹マヤだった。実験は順調――というより、いつもと全く変わりがない。チルドレンの精神状態を表すモニタには変化があっても、それがエヴァンゲリオンとの関係に影響をもたらすことは、彼らの検査している範囲では確認できない。

「みんな、お疲れ様。上がっていいわ」

 その日もリツコは、何も得られぬまま実験の終了を告げた。

 相変わらず、真の適格者と呼ばれている彼らを使っての実験では得られるものがない。せめて、何か変化でもあれば、それをきっかけに何か掴めることもあるのだろうが……。


「あなた、何を苛々しているの?」

「何でもないわよ!」

 実験終了後の女子更衣室で山岡ルナが惣流アスカ・ツェッペリンに話しかけたが、アスカは苛立たしげに声を荒げるばかりで、何も語らなかった。

「そう。良かったわね。――じゃ、さよなら」

ぷしゅっ

 ルナはそれ以上アスカに関わることを止め、一緒に帰宅するためのシンジとの合流場所へと向かった。

ごすっ

 アスカが一人残された女子更衣室内に、ロッカーが殴り付けられる鈍い音が響いた。

「何よみんな、あたしを馬鹿にしちゃって……」

 アスカには最近ストレスが溜まっていた。

 太平洋上での弐号機の一人舞台――第6の使徒ガギエルとの戦いは別として、第7の使徒イスラフェルとの戦いでは空気を読まない碇シンジとルナのせいで自分一人が醜態を晒す羽目になり、第8の使徒サンダルフォンとの戦いでは単なる釣り餌代わりに使われた。第9の使徒マトリエル戦では、リーダーの資質を発揮して三体のエヴァンゲリオンを指揮し華麗に使徒を倒すはずが、使徒は第3新東京市に到達する前にN地雷で殲滅され、彼女に出番はなかった。第10の使徒サハクィエル戦では止めを刺す役を果たしたが、その主役は誰が見てもシンジの初号機だった。第11の使徒イロウル戦でもエヴァンゲリオンの出番はなかった。

(あぁぁぁぁ、苛々する)

「今回はあたしが主人公よ!」

 アスカは他に誰もいない更衣室で立ち上がり、左手を腰に当てて胸を張りつつ、鏡に映った自身に向かい右手で指さしながら宣言した。

 それは突然現れた。

 第3新東京市の市街地上空に、表面に黒と白の縞模様が描かれた正体不明の球状物体が浮かんでいた。

ばさばさばさっ

 建築物の屋上や看板などに止まり、羽を休めていた鳥たちも、その物体が接近すると、一斉に羽ばたき、その場を離れていく。

びーっ、びーっ、びーっ

「地区の住人避難、後5分掛かります」

「目標は微速進行中、毎時2.5キロ」

 NERV本部内第1発令所には、その未確認物体の発見と同時に警報が鳴り響き、既に警戒体制が敷かれている。

「富士の電波観測所は?」

「探知してない。直上にいきなり現れたんだ」

 指揮官であるマコトの確認の言葉に報告を返したのは青葉シゲルだった。

「パターン、オレンジ。ATフィールド、反応無し」

「どういうことだ?」

「新種の使徒?」

「MAGIは判断を保留しています」

 発令所の職員が目の前の物体の正体について、答の出ないままの議論を続ける中、マコトが愚痴をこぼす。

「こんな時に、六分儀司令はいないってかよ」


「目標は正体不明。未だに使徒とも確認されず……か」

『あんなの使徒に決まってんじゃない!』

 マコトが現在取るべき手段を考えつつひとりごちた言葉に、エヴァンゲリオン弐号機に搭乗して発進を待つアスカが答えた。当然アスカは使徒の正体を知っている。

「まぁ、それは確かにそうなんだが――。よし、エヴァ各機はそのまま待機。地上の兵装ビルから攻撃を加えて様子を見よう」

 その直後、上空の球状物体に対し、兵装ビルからの砲撃が加えられた。

 しかし砲撃が直撃したかに見えた瞬間、それは目前から掻き消えた。

「消えた?」

 リツコが目の前の事態をそのまま言葉に出す裏で、オペレータの報告が届いた。

「パターン、青。使徒発見。先ほど砲撃を加えた兵装ビルの直下です」

 と同時に、映像では件の兵装ビルが足下に広がる黒い影に飲み込まれていくのを捉えていた。

「何だ、あれ?」

 発令所内が混乱している内にも、付近のビル群は次々と影の中にその姿を消していく。そして影の中心の直上には、再び黒と白の縞模様の球状物体が現れていた。

「こいつはやっかいだな……」

『あたしを早く出しなさいよ!』

『アスカ、何を焦ってるのさ』

『兵装ビルは邪魔だわ。全部引っ込めて、それからあたしを出せばいいの。あんなのあたしと弐号機に掛かれば、お茶の子さいさいよ!』


 作戦課長の決断は――

「エヴァパイロットはプラグから降りて、別命あるまで待機」

「ほう、今度のはこないなやつかいな――こら、スイカやな。何々、スイカを叩く時は、足下に気を付けろ……やて」

 シェルターに避難したトウジは、ケンスケの持っていた怪獣図鑑その12を手にし、ケンスケに感想を言った。

「だから、そいつは影なんだよ。下の影に見える方が本体――書いてあるだろ?」

「細かいやっちゃなぁ」

「ほら、見てみろよ。上のビルがどんどん飲み込まれてる。こいつはやっかいだよ。エヴァも出てこないわけだよ……」

 大雑把な反応しか見せないトウジに呆れたように、ケンスケは手元のノートパソコンに映る上の街のライブ映像を指さしながら、言った。

 対使徒戦の主要職員はリツコの用意したホワイトボードの前で、使徒への対応策を考えていた。

「じゃあ、あの影の部分が使徒の本体というわけですか?」

「そう。直径680メートル、厚さ約3ナノメートルのね。その極薄の空間を内向きのATフィールドで支え、内部はディラックの海といわれる虚数空間――多分、別の宇宙に繋がっているんじゃないかしら」

 マコトの質問に答えるのは当然のごとく、リツコだった。

「あの球体は?」

「本体と虚数回路が閉じれば消えてしまう。上空の物体こそ、影に過ぎないわ」

「兵装ビルを取り込んだ、黒い影が目標か……」

(シンジ君たちが持っていたあの情報通り……ね)

 誰もが決定的な方針を打ち出せずに黙り込む中、リツコはシンジから受け取った怪獣図鑑を思い出していた。

「そんなの飛び込んでやっつければいいのよ!」

 一方、アスカだけは血気盛んだった。

「止めなよ、アスカ」

「何よ! ひょっとして怖いの? シンちゃん」

「ああ、怖いさ」

「『戦いは、男の仕事』じゃなかったの? お手本は見せてくれないの?」

「あなた、下らない細かいことばかり覚えているのね」

「な、何よ。シンジの悪口を言われるのが、そんなに不愉快?」

「ええ、不愉快よ」

「ちょっとあなたたち、作戦を説明するから聞きなさい!」

 突然、意味のよく解らない喧嘩を始めたチルドレンを叱責したのはリツコだった。


「N作戦……ですか?」

「現在、可能と思われる唯一の方法よ。993個。現存する全てのN爆雷を中心部に投下。タイミングを合わせて三体のエヴァのATフィールドを使い、使徒の虚数回路に1000分の1秒だけ干渉。その瞬間に爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する」

「それで、行けますか?」

 リツコの説明を聞いても、マコトには意味が良く解らなかった。

「これでダメなら、打つ手無しよ。それこそ、エヴァで飛び込んで貰うくらいしかないわね」

「大丈夫よ日向さん、いざとなったらあたしがやっつけてやるんだから、屋形船に乗った気でいなさいよ!」

「お客さん気分で良いってことか……?」

 マコトはひとりごちつつも、作戦の決行を決めた。


「関空にも便を廻す。航空管制と空自の輸送団に連絡を」

 作戦さえ決まれば、NERV本部の職員の動きは速い。しかし、世界中からN爆雷を集めるために必要な時間は、彼らの努力だけで縮められるものではなかった。

「おいおい、わしらこのまま、いつまで缶詰なっとればええんや?」

「外の様子も全然変わらないしな。やっぱ、やばいんじゃないか?」

 トウジとケンスケが現状に不安を感じ始めたところで、山岡リナが言った。

「もう直ぐ、シンちゃんがやっつけてくれるよ!」

「せやかて、エヴァも出てけぇへんで?」

「きっと準備があるんだよ」

「そうよリナの言う通りよ。鈴原、私たちにできることは碇君たちを信じて待つことだけよ。ちょっと落ち着きなさいよ。周りの小さい子たちまで不安になるじゃない」

 なおも納得できないという雰囲気のトウジを叱責するのは洞木ヒカリの役割だった。

「ぐぇっ、いいんちょ。おとなしゅうするさかい、かんにんや」

 トウジのおどけた様子に、ようやくシェルターに落ち着きは取り戻された。

 世界中からN爆雷を集め、NERV本部が全ての作戦準備を整えるまでには10時間を要した。

「エヴァ各機、作戦位置へ」

『了解』

 マコトの指示に従い、三体のエヴァンゲリオンは真円を描く影状の使徒の外側に正三角形を描くような配置に付いた。

「ATフィールド、発生準備良し」

「了解。爆雷投下、60秒前」

 エヴァンゲリオン各機に関するマヤの報告を受けたマコトは、作戦開始時刻を60秒後に設定した。

 上空には、その腹にN爆雷を抱えた爆撃機が無数の飛行機雲を描きつつ、作戦開始時刻を待っている。


「……10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……投下」

 オペレータによるカウントダウンが作戦開始時刻を告げると同時に、上空の爆撃機が同時に爆雷を投下した。

「N爆雷、全て使徒に命中」

 投下されたN爆雷の様子が報告されると、作戦は次の段階へと進む。

「エヴァ各機、ATフィールド、展開」

『フィールド全開』

 マコトの指示に合わせ、使徒の周囲に配置されていたエヴァンゲリオンに乗り込んでいるチルドレンはATフィールドを展開した。

「N爆雷、起爆信号確認」

 三体のエヴァンゲリオンが発生させたATフィールドが相互干渉で出力が最大になった瞬間、MAGIの制御により自動的に全てのN爆雷が同時に起爆された。そして――

『何も起こらないじゃない!』

「虚数空間内のことは、外からでは解らないわ。中では時間の進み方だって違うかもしれない……」

 アスカに反応したリツコの言葉には力がなかった。

(ちゃーんす)

 アスカは心の中でそう呟くと、宣言した。

『それじゃ、行ってきまーす』

「なんや、惣流、影に飛び込みよったで?」

「シンちゃんに任せとけば良かったのに……。アスカってば目立ちたがりなんだから」

「何よこれ? 真っ白じゃない。レーダーもソナーも返ってこないし――空間が広すぎるのね」

 使徒の影に飛び込んだアスカは、途方にくれていた。

(まずは考えるのよ、アスカ)

 アスカはそう自分に言い聞かせると、弐号機を生命維持モードに切り替えた。

 途端にエントリープラグ内は暗闇に包まれる。

「バカシンジにだってできたんだから、あたしにもできるはずよ。そう、あたしは惣流アスカ・ツェッペリンなのよ!」

「でも、どうしたらいいのかしら……」

「コアも見つからないし……」

「バカシンジのやつこんな中に16時間も一人でいたの?」

「はぁ、これで死んだら、あたし本当に笑い物ね……」

「あたしがダメなら、きっとシンジが来るわね。それで、シンジならきっとなんとかするんだわ」

 暗闇に包まれた、たった独りきりのエントリープラグの中で、打開策を見つけられないまま考え事に耽っていたアスカは、いつしか自らの膝を抱えたまま、浅い眠りに就いていた。

『あーあ、行っちゃった』

「シンジ君とルナちゃんは、一先ず撤退してくれ」

 呆れ顔のシンジの様子を見て、マコトが初号機と零号機の撤退を指示した。しかし――

『このまま待機した方がいいです』

「どういうこと?」

 シンジの反論に対しリツコは質問を返した。

『アスカはこの10時間で立てられた唯一の作戦が失敗したことを知っています。もし、中で何もできないからといっても、黙って助けを待つという選択肢は存在しないと考えるでしょう』

「生命維持モードで時間を稼ぐなんて考えないだろう……というのね?」

『はい。エネルギーを節約してちょっと考え事をする……ということはあっても、座して死を待つなんてことはないと思います――アスカだし』

「事が起こるとすれば、それ程遠くない未来ということね……」

「それじゃ、もう暫くそのまま待機してくれ。時間が掛かるようなら追って指示を出す」

『了解』

はっ

「夢?」

 突如覚醒したアスカは辺りを見回し、そこがエントリープラグの暗闇であることに気付くと、突然自身に恐怖が襲ってくるのを感じた。

「一人は嫌、一人は嫌、一人は嫌ぁぁぁぁぁ!」

 混乱に陥ったアスカは生命維持モードを解除し、闇雲にATフィールドを全開にした。

「そろそろ、戻らないか?」

 エヴァンゲリオン弐号機が影に飛び込んでから早三時間。マコトは再び撤退を促した。発令所の職員はその間も必死で次の策を練ってはいたが、未だ具体的な方針は立っていなかった。

『そうですね……』

『いえ、来る』

 シンジがマコトの指示に同意しかけたのとほぼ同時に、ルナが言った。

 それとほぼ同時に地面に広がった影に皹が走り、地面が波打ち始めた。

「何が始まったの?」

「状況は?」

「解りません」

「全てのメーターが、振り切られています」

『碇君』

 発令所内が混乱する中、ルナだけは何が起ころうとしているのかを知っていた。

 シンジはルナに対し、ただ黙って頷き返した。

「アスカが何かをしたということかしら?」

 リツコは答の出ない疑問を口に出していた。

 発令所のモニタには、その時上空に浮かぶ球体が震えている映像が捉えられている。

 やがて球体を突き破り、赤い血飛沫と共に腕が飛び出し、次いで弐号機の顔が現れた。

ぐるるるるるるっ

 周囲には、弐号機の吠え声とも唸り声ともつかない音が響いている。

「何てものを、何てものをコピーしたの? 私たちは……」

 リツコの呟きを聞くものはいなかった。

 数秒の後、弐号機は球体を完全に突き破って飛び降り、血の雨を浴びつつ地面に着地した。

 弐号機が着地した先は既に皹だらけとなった影状の使徒本体の上であり、そこは着地の衝撃に合わせて大きく振動した。

『まずい!』

『いけない!』

 シンジとルナはほぼ同時に気付いた。弐号機が飛び出した後に残された上空の球状物体が発光しつつ収縮を始めていたのだ。

 直後、初号機と零号機は球状物体の直下を目指し、走り始めた。

 影状の使徒の円周部から中心までの約300メートルという距離は、エヴァンゲリオンにとり、存在しないも同然の距離だった。一秒もかからずに二体のエヴァンゲリオンは其処へ到達し、シンジとルナは言った。

『ATフィールド、全開!』

『アスカ! フィールド全開!』

 その直後、上空の球状物体が大爆発を起こした。


 爆発の閃光と爆風が止むと、そこには仁王立ちする血塗れの弐号機と、それを挟むように立つ零号機と初号機の姿だけが残されていた。

「今回の事件の唯一の直接の当事者と言える弐号機パイロットの尋問を拒否したそうだな、惣流技術部顧問?」

「かの東方の三賢者の一人と言えども、我が娘は可愛いというわけか」

「彼女の情緒は現在、大変不安定です。今、ここに立つことが良策とは思えませんわ」

 惣流キョウコ・ツェッペリンは自らの娘であるアスカに代わり、人類補完委員会の査問会に出頭していた。査問会は通常の委員会の会議と同様、ホログラムを用いた仮想会議形式で行われていた。

「では訊こう。代理人、惣流技術部顧問」

「先の事件。使徒は我々人類に、コンタクトを試みたのではないのかね?」

「被験者の報告からはそれを感じ取れません。イレギュラーな事件だと推定されます」

「彼女の記憶が正しいとすればな」

「エヴァのACレコーダにもそれらしい記録は残されてはいません」

「使徒は人間の精神――心に興味を持ったのかね?」

「その返答はできかねます。果たして使徒に心の概念があるのか、人間の思考が理解できるのか、全く不明ですから」

「今回の事件には、使徒がエヴァを取り込もうとしたという新たな要素がある」

「これが、予想される第13の使徒の襲来とリンクする可能性がある」

「これまでのパターンから、使徒同士の組織的な繋がりは、否定されます」

「左様。単独行動であることは明らかだ。これまではな――

「これからは違うと?」

「君の質問は許されない」

 人類補完委員会の議長であるキール・ローレンツがキョウコの発言を咎めた。

「はい」

「ところで、聞けば、最近は母親業に精を出しているそうだな」

「仕事は実質的に引退ですもの――本部の技術部に私の出る幕などありませんわ」

「そうか、以上だ。下がりたまえ」

「はい」

「どう思うかね? 六分儀君」

「使徒は知恵を身に付け始めています。残された時間は――

「あと僅か――ということか」

「初めは夢を見たんだと思ったわ」

 第12の使徒レリエルとの戦いの数日後、アスカは山岡家のリビングでお茶を飲みながら、使徒の内部に潜っていた時の話をしていた。

「夢?」

「そう、夢」

「どんな夢?」

「弐号機に乗ってる私の目の前に、緑の大地が広がってるの。その周りは森」

「それってドイツにいた頃の景色?」

「多分違う。あたしの知ってるドイツなら雪景色のはずよ」

 セカンドインパクトによる地軸のずれの結果、日本が常夏の国になってしまったように、欧州の大部分は夏という季節を失った。そのため、アスカの心象風景に残るドイツには雪が欠かせない。

「そう言えば、アスカからドイツの話って聞いたことないよ」

 シンジが打った相槌につられたリナがドイツという言葉に反応した。

「あたしのドイツの思い出って大したこと無いのよ。NERVから出るのは学校行く時くらいだったし」

「ドイツの学校ってどんなの?」

「別に変わらないわよ。授業がドイツ語で行われるのと、授業中にセカンドインパクトの話を始める教師がいないってくらいのもんよ。あぁ、それと生徒はみんな解らないことがあったらその場で質問するわね」

「ふーん」

「そう言えば、今回は大学出てないんだろう?」

「今更、大学レベルの知識を早く詰め込みましたって肩書きを無理して持ってても意味ないもの。前の記憶があるから名はなくとも実はあるわけだし」

「そっか――。で、夢の話の続きは?」

「あたしの弐号機の前にファーストがいたわ」

「ファーストって、綾波……さん?」

「私は死んだファーストは全然知らないのよ。だから、ファーストっぽい別人かもしれないわ。とにかく、青い髪で紅い瞳の娘……というより、もっと大人になっていたわね。なんか、落ち着いちゃってるの」

「それで?」

「その青い髪の――面倒だからファーストってことにするわ。そのファーストはきっと私と弐号機が来るのを待っていたのね」

「待っていた?」

「そ」

 アスカはここで紅茶のカップに口を付けた。

「アスカってそのファーストさんに待たれる覚えがあるの?」

「無いわよ。向こうが勝手に待ってたのよ」

「それじゃ、どうして待っていたなんて解るの?」

「そりゃ、何となくよ」

「シンちゃん、それが女の勘ってやつよ」

「まぁ、いいや。それで?」

「ファーストが手招きするから、あたしは弐号機から降りて後に着いて行ったの」

「アスカってば、知らない人に着いて行っちゃダメって教わらなかったの?」

ごすっ

「痛いの」

「とにかく、着いて行った先には家があったわ。けっこう広くて、近代的な感じなのが不自然だった。だって、周りには森しかなくて街も無いのよ?」

「へぇー」

「それで、家に着いたらお茶を勧められたの。良く解らないけどフレッシュハーブをブレンドしたお茶だったわ」

「お洒落なのね」

「ルナとリナもいたわ」

「え? ねぇねぇ、私、セクシーダイナマイツになってた?」

「んー、あんたたちも落ち着いちゃってたわ……。なんか人当たりが柔らかい大人の女って感じ? うーん、説明が難しいわね」

「シンちゃん、大人の私はどう?」

「イイトオモウヨ」

「で、暫く話をしてたはずなんだけど、何の話をしたのかは全然覚えてないの」

「まぁ、夢の話だからね」

「それで、お茶を飲み終わる頃に男が迎えに来たの。あれ、多分シンジだと思うわ」

「シンちゃんも出てきたの? ダメよ。シンちゃんは私のだから」

「誰も取りゃしないわよ――でも、背が高かったからシンジじゃないかもね。あたしより頭一つは大きかったわ」

「碇君は、背高くなるもの」

 ルナは紅い世界での経験で、それを知っていた。

 シンジの隣に座っているリナが突然体を縮めて、シンジの顔を見上げる格好をした。

「何してるの?」

「大人シンちゃんとのキスのイメージトレーニング♥ きゃあー」

「それで後は弐号機まで連れてかれて、そのまま別れたの。あぁ、S機関付けといたから頑張ってねとか言われたわ」

「そりゃまた色気のない話だね」

「あんたに色気があるっての?」

「失礼ねぇ。私のシンちゃんはセクシーよ♥」

「はいはい。で、弐号機に乗ったところで、ふっと目が覚めたってわけ」

「その後は直ぐに使徒殲滅ってことか……」

「でも、夢じゃなかったのよね……多分」

「弐号機にも今はS機関、付いてるらしいね――秘密みたいだけど」

「あれって、使徒がくれたのかな? それとも夢の中のシンジ?」

to be continued...



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